メンバーインタビュー 04 藤村 琢己

メンバーインタビュー

教育に橋を渡し、広げたい景色がある

04 藤村 琢己(代表理事)

経営とは組織を預かるということ。関わる人たちが想いを実現していけるように、組織をつないでいきたい

そう話してくれたのは、Foraの代表理事 藤村琢己さんです。探究学習やキャリア教育をさまざまな角度からサポートするFora。「Foraで働くスタッフがどんな想いを持ちながら、Foraや探究学習に関わっているのか」を聞き、Foraをより深く知るきっかけをお届けするインタビュー。今回は、藤村さんがForaを立ち上げたきっかけ、現在の活動やそこに込めた想いについてお話を聞きました。

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代表理事
藤村 琢己(ふじむら・たくみ)

1990年生まれ。2011 年に中央大学法学部入学後、教育/人材育成への興味から株式会社アクティブラーニング、NPO 法人 ISL(アイ・エス・エル)でのインターンを経て、2014 年1月より一般社団法人全国学生連携機構(JASCA)の立ち上げに参画。その後、2016 年 4 月より一般社団法人 Fora を設立し、代表理事に就任。学校の探究学習カリキュラム策定や、官公庁や教育企業との協働プロジェクトに従事するほか、教材制作や学校支援事業を統括推進。

公式がない現場で、一緒に模索する

まずは、藤村さんがForaで普段どのようなことをやっているのか教えてもらえますか?

学校教育の支援をしています。

特に、「総合的な探究の時間」やキャリア教育の部分を重点的にサポートさせていただいていますね。

最初は学校でのワークショップからスタートしたのですが、今は教材をつくったり、3年間のカリキュラムの設計を一緒に考えたりしています。最近では「教育評価」といって、生徒が成長しているのかどうかを検証して次年度に生かす部分にも関わらせていただいています。

たとえば企業の研修でも、研修によって成長したのかわからない、ということがよくあるように、ワークショップや授業によって生徒が成長したかわからない、ということも起こり得ます。

そのため、「成果が出ているか?」「生徒の学びがあるかどうか?」を学校の先生と一緒にディスカッションさせてもらいながら、「総合的な探究の時間」を一緒につくっていますね

ー なるほど、先生方と一緒にお仕事をされることが多いんですね。

はい、そうですね。

ただ、1年に何回か、講演や面談など、生徒と直接関わる機会も必ず入れるようにしています。

そうしないと、「自分がいいと思っているもの」と「本当に生徒にとっていいもの」がどんどん乖離していってしまうと考えているので、意識的に生徒と関わるようにしていますね。

特に、Foraが取り組んでいるキャリア教育や探究学習は新しい取り組みなので、定石や解法、公式があるというよりは、それぞれの現場が模索している状態なんです。

その分、それぞれの学校で目指したいことや課題は、現場にかなり眠っていて、学校の外へオープンになりきっていない側面があります。探究学習の課題や解決方法は本を読んで勉強してもあまり見えてこないので、自らそれぞれの学校現場に行って、きちんと見て考えるようにしていますね。

“なんとなく”と”リアル”を近づける

藤村さんは、Foraの立ち上げから関わっているんですか?

はい。Foraがまだ学生団体だった時から関わっていました。
その学生団体は、大学入学前の春休みを過ごしている高校3年生を対象に、7日間の合宿をつくっていました。

前半3日間で、自分たちが生きている社会の現状・歴史・未来について知る。そして、後半4日間で、自分の生き方や理想の未来について、実際に働いている企業の人と対話しながら考えるという内容でした。

参加してもらう企業の方には、あえて名前や肩書きを隠してもらいました。その上で、「君は何がやりたいの?」「俺は、こういうことがやりたいんですよ!」というような対話をしていただくんです。そして最後に蓋を開けてみると、実は有名な企業の社長で、「そうだったんですね、偉そうにすみませんでした!!」みたいになることもあって(笑)

最終日には「大学に自分は何をしに行きたいか」「4年間どういうことをやっていきたいのか」を考える、そういう合宿でしたね。

ー それは様々な視点から刺激をもらえる合宿ですね。

そうですね。そもそもなぜそのような合宿をやっていたかというと、大学に行く目的が漠然としており、「大学の学びって、何をするんだ?」という状態の高校生が少なくない現状に気づいたからなんです。

「リベラルアーツが」「教養が」と言うけれど、本当の意味で大学のことをよく分かっているわけではない。みんなが行くから、なんとなく大学にも行く、といったように。
だから、高校生と大学の学びの橋渡しができればと思い、合宿を行っていました。

ー そうだったんですね。今、Foraが取り組んでいるキャリア教育にもつながる考え方のように思います。

確かにそうですね。

学生団体の活動を続けているうちに、その合宿のエッセンスを広める提案をある企業さんからいただきました。「7日間の合宿はできないけれど、高校生向けに1〜2コマの授業で将来を考えるきっかけを作ることができれば、色んな学校へ提供できるよね」と。

こうして生まれたのが、大学生が学問の魅力を高校生へ伝える出張授業「キャリアゼミ」です。結果として、ご提案いただいた企業さんとパートナーシップを組ませていただいて、1年で1万人弱の高校生にコンテンツを届けることができました。

ー 1万人弱!たくさんの生徒に、将来につながるキャリア選択をするきっかけを届けてきたのですね。

そうですね。

ちなみにこの経験は、私自身のキャリア選択のきっかけにもなっているんです。というのも、実は元々、教育にはセカンドキャリア以降で関われればいいなと思っていました。

ですので、このプロジェクトにも最初は関わっていませんでしたし、途中お誘いいただいたタイミングでも、正直断ろうかなと思っていたんです。話を聞く前は、これ以上プロジェクトも増やしたくなかったし、中途半端になるのも嫌だなあと思ってました。

ただ、キャリア教育に真正面から取り組んで、インパクトをちゃんと出そうとしているスタンスや熱量に押され、この人たちと一緒に仕事したら面白そう、と思って、関わることに決めました。

実は私自身、大学選びに失敗したという原体験があります。「立法」に興味があって法学部に入ったのですが、私がいた大学の法学部では「立法」についてそもそも学ぶことができなくて。「どんな法律を作ったらいいか?」ということを学びたかったのに、全然できなかったんですよね。それで、自分は何をしに大学にきたんだろう、と思ってしまったんです。

だからこそ、今の高校生にはミスマッチのない大学・学部選択をしてほしいと思うようになりました。

そういった原体験や想いがあり、一緒にその想いを叶えられる仲間もいて、機会もあって。ここでやらないという選択肢はないだろうと思い、Foraでキャリア教育をやろう、という気持ちになりました。実際に立ち上げるときには、迷いもなく覚悟を決めていましたね。

探究を深める。それが何よりのキャリア教育

Foraが現在取り組んでいる事業は、キャリア教育と探究学習ですよね。キャリアゼミの活動は現在も行っていますが、探究学習の事業はどのように始まったのでしょうか?

はい、探究学習の事業は、Foraの立ち上げ3年目から行っているのですが、1年目の時から1回だけのキャリア教育の授業に限界を感じていたのも事実でした。

合宿のような場に呼んでいただいて講演をさせてもらって、生徒も話をちゃんと聞いてくれて「いい感じで終わってよかったな」と思っていたら、その後すぐに生活指導が始まってしまう、ということがあったんですね(笑)

よくある光景ではあると思うのですが、あっという間にいつもの日常に戻ってしまって、このままだと生徒の中に深くは残らないなと思ったんです。

だからこそ、1回の授業もすごく大事で意味があることと思いつつも、限界を感じていたんですよね。

ー 授業1回の限界、ですか。

そうですね。

やっぱり年間を通して関わることや、中長期的に関わることを大事にしていかないといけないんだろうなと、漠然と感じていたんです。

ちょうどそんなことを考えているうちに、当時キャリアゼミで関わらせていただいていた学校が探究学習にすごく力を入れている学校で、生徒自身がテーマを設定し、問いを持ち、仮説を立てて検証をしていく探究を試行錯誤していました。

その学校に、個別に生徒と面談をして、生徒の探究学習における困りごとを一緒に解決する役割の大学生TA(ティーチング・アシスタント)を送るという形で探究学習に関わり始めました。

学校の予算の制約上、大学生TAの人件費は工面してくださったのですが、法人としてのForaにはお金が出せず、ボランティアとしての側面が大きい活動だったのですが、それでもぜひ一緒にやりたいということでやらせていただいていました。

そうなんですね。当時のForaにとって、大きな投資ですね。なぜ踏み切ろうと思ったのでしょうか?

探究を深めることが、何よりのキャリア教育なのではないかと思ったからです。

結局「自分の興味関心ってなんだろう?」ということを考えて、それが世の中ではどのような学問として、どのように議論されているのかを知っていく。さらにそれを自分に取り入れながら深めていく。

そういった過程を通して「自分なりの問いを学問や社会に接続していくこと」そのものが、キャリア教育なんだろうなと感じたんです。ちなみに、ここで言っている「キャリア教育」は、進路指導として大学や学部選択につなげていくという文脈ももちろんあるのですが、もう少し範囲を広げると、人生を通して、正解がない中で自分なりに答えを見出していくことなんだろうと思っています。

例えば、私が大学生になったときに「どんなふうに大学生活を過ごしたらいいだろうか?」と考えていくことや、社会に出て仕事をする上で「自分で会社を立ち上げるのか、会社員として働くのか?」といったこともそうです。さらには人生を通して「どんな人生を生きていきたいか?」「仕事とのバランスはどうするか?」といったことを考えていくこともそうですね。

そうやってキャリア教育を通して、答えがない問いを考えていくことそのものが「探究」なんですよね。だからこそ、キャリア教育を支援している団体として「探究学習」は重要だと考え、ぜひやっていこうと決めたのだと思います。

ーなるほど。キャリアゼミの事業をやる中でそうした感覚を持っていたからこそ、探究学習を知って、すぐにピンときたのですね。

そうですね。

Foraは高大接続として、学問の紹介や魅力を伝えるワークショップも行ってました。ですので、そもそも問いを扱ったり、探究的な技法を使う文化があったのがピンときた理由の一つだと思います。

また、Foraの文化として、数多くの学問を知っていて、様々なチャレンジをしている人はかっこいいという雰囲気や、問いや仮説をたてて議論をする文化がありました。結論ありきではなく、人の考えを聞きながら、自分の考えも変わっていく。あるいは、自分一人で何かをつくり出すというよりも、みんなの知恵を合わせて集合知をつくっていくという意識も強かったです。

そういう探究的な姿勢や取り組みのおもしろさを自分たち自身も感じていたからこそ、キャリア教育だけでなく、探究学習にもしっかり取り組んでいこうと思ったんです。

外部団体だからこそ、コンテンツをつくり続ける理由がある

これまでお聞きしたForaの成り立ちを経て、現在、Foraで力を入れている点を挙げるとしたらなんでしょうか?

大きく2つあると思っています。1つ目は、コンテンツ開発です。

いま学校では、キャリア教育や探究学習が盛んに行われるなかで、それらに関する魅力的な教材を提供していく副教材会社の役割が重要なのだと思っています。そう聞くと新しい取り組みのようにも見えますが、この関係は教科書会社と学校の昔からの関係に近かったのかなと思います。

学校はよりよい授業づくりを行い、外部団体はよりよい授業づくりにつながるコンテンツを作るという役割分担が持続的なのだろうと考えています。

もし、すべての教材を学校の先生が開発するとなると、相当なハードワークになります。ただでさえ多忙な先生たちに、教材開発の負担を求めるのは求めすぎのように感じていて。一方で、外部に委託したところで質の低い教材では、生徒たちが学びを得られなくなってしまう。だからこそ、Foraは外部団体としてコンテンツを開発し、作り込むべきだと考えているんです。

それに、複数の外部団体がコンテンツを作ることで、いい意味での競争が生まれます。競争の中で学校に採択されるためには、外部団体がコンテンツの質を高め続ける必要がありますし、その結果、学校に届くコンテンツの質が全体として高まる効果もあります。

そうなれば、採択する側の学校にとっても、複数のコンテンツを比較し選べることが、よりよいコンテンツと出会うことになり、好循環が生まれると思っています。

その中でも、Foraは教材だけでなくワークショップなどの授業も含めたコンテンツを提供していければと思っています。もともとキャリアゼミで授業を行うことに力を入れてきたので、ワークショップの重要性を感じているのだと思います。

ーなるほど。数ある外部団体の中でも、キャリアゼミをはじめとする今までの経験を持ったForaだからこそつくることができるコンテンツがあると感じます。

ありがとうございます。

コンテンツのこだわりは、私自身の原体験も理由の一つかもしれません。私自身は、高校生の時に国語が苦手だったのですが、どうやったら国語の力を伸ばせるかを具体的に言葉にしてくれているコンテンツに出会うことができなかったんです。

結局、学校や予備校の先生方と一緒に自力で必要な力を考え、身につけていきました。

ただ当時、そうした国語の力を伸ばすための具体的な方法や、そもそもどんな力を伸ばせばいいのか?を言葉にしてくれているコンテンツに出会えていたら。言い換えれば、もっと学びたい、自分を変えたいという意欲に応えるコンテンツや、さらに深い学びへと誘うコンテンツに出会えていればありがたかったなとも思います。

そういった自分の経験も踏まえて、キャリア教育や探究学習の分野でForaがやってきたことをコンテンツという形で世に出すことで、もやもやした気持ちが晴れる人がいたらいいなと思っている部分もあります。

教育に関わる人に、橋を渡す

Foraが今、力を入れている点のもう1つはなんでしょうか?

学校が、外部の事業者とうまく連携していける仕組みづくりです。

特に、公立高校の先生には異動があり、とても良い取り組みをしていても、担当の先生が異動してしまったことによって、うまく引き継ぎできず、いい流れが止まってしまうこともあり得ます。

そういった課題に対して、うまく外部が関わり続けることによって、後任の先生へ引き継ぐサポートができるのではないかと思っているんです。
そのためには、学校から、Foraのような外部団体と関わり続けることに価値があると思ってもらえるかがとても大事だと思います。この数年で私自身が感じる変化は、「外から関わっている事業者が、どう学校と関わっていくか?学校とともによりよい教育を実現するにはどうすればよいのか?」というところに責任を持って取り組んでいきたいと考えるようになったことだと思います。

そのためにも、ただコンテンツを提供するだけでなく、学校に伴走する団体でいたいと思っています。

今、学校では、探究学習やキャリア教育という新しい取り組みを軌道に乗せていく段階で、「外部団体と連携するのか?」というそもそもの議論が起こっているところもあれば、「外部団体とどう連携していくのか?」を模索しているところもあります。

学校と外部団体が連携していく上で、外部団体のコンテンツをただ導入するというだけではなく、先生方の長時間労働へ頼るのでもなく、学校のやりたいことに外部団体が伴走しながらコンテンツを提供していくというあり方もできるのではないかと思っています。

それをつくることができるかどうかどうかがここ数年のチャレンジですね。

理論と現場を繋いだら、見えたもの

今までお話を聞いていて、いい意味で「代表らしくない」と感じました。引っ張っていくより、現場に必要なものをとことん探究しているように見えました。

そうかもしれないですね。

とはいえ僕自身は、1〜3年目はけっこう経営に注力していたんです。

もちろんそれも悪くはないんですが、4年目で生徒に関わらせてもらう中で、生徒と向き合い続けることの重要性を教えてもらった気がしています。最後に届けたい相手は生徒なので、その生徒に向き合うための現場経験は持ち続けないといけないな、と

特に、教育って、一歩間違えれば、「こうあるべきだ」という提供側の思いが先行してしまうこともあるんですよね。それは気をつけないといけないと感じています。そうならないためにも、最後の受け手である生徒のことをちゃんと見ることが大事だと思います。

最近だと、Foraの教材を使って行われる授業の見学に行かせてもらうことがよくあるのですが、そこで「先生たちが教材の意図を生徒にうまく伝えきれるような教材になっているか?」をちゃんと考えるようにしていますね。

「この部分は先生にとって話しづらいんだな」といったことも、ちゃんと肌で感じるようにしています。

理論だけでは得られない感覚を、現場で経験したことが教えてくれたんですね。それでは最後に、これから先藤村さんがForaでやりたいことを教えてください。

Foraには、教育に想いをもっている人たちが、教育に対してそれぞれのアプローチをするために集まっています。彼らの創意工夫を引き出しながら、関わった人たちに「Foraに関わってよかった」と思ってもらいたい。そして生徒たちに学びを届けていきたい。その気持ちが強いです。

そのように考えるのも、私はずっと、「経営とは組織を預かるということ」といった意識が強いからだと思います。それは、団体名を決める時からずっと考えていました。

というのも、「Fora」はラテン語で「場」という意味です。

自分たちが生徒に対して教育の場を提供すると同時に、Fora自体が、教育に何かしらの形で関わりたいという想いをもっている人たちの活躍の場であってほしいという想いをこめていました。

これからも、今預かっているものを、どう次にちゃんとつないでいけるかということを考え続けたいです。きちんとつないでいくためには、橋渡しをする役、すなわちコーディネーター役がすごく重要だと思っていて。様々な場面において、橋渡しの意識を大切にしていきたいです。

聞き手・編集:加藤恵美 / ライター・写真:鈴木あゆみ

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