奨学金横断検索サービスcanpassインタビュー【後編】

奨学金横断検索サービスのCanpassが先日公開されました。大学進学等を諦める理由に、経済的な理由も少なくない中で、全国に10,000件以上ある奨学金を横断的に検索できる無料Webサービスです。今回のインタビューでは、あしなが育英会の富樫様、佐藤様、そしてプロジェクトを起案されたNECの田中様にお話をお聞きし、そのプロダクト開発に込められた想いを探ります。

実際の開発は1年ほどだったと聞いています。どのような流れだったのでしょうか

田中さん
ゼロから作るプロジェクトでもあったので、走りながら形にすることを重視していました。最初の3ヶ月ほどは企画段階にあて、そこから段階的にフェーズ2でプロトタイプ作成に着手し、フェーズ3では実際の高校生のユーザーに動くプロトタイプを使用していただき改善点を探るPoCを経て、最終的には企画から一年足らずで本年5月にリリースとの流れとなりました。

言い換えれば、最初はカスタマージャーニーを描き、そもそもどういうソリューションであるべきかの共通認識を持つことから始まり、ミニマムの検索する機能を実装してみて、あしながの奨学金の奨学生にも試用してもらい、使いにくい点を改善しつつ、同時並行でデータ集めをしてきたというのが大きな流れです。

また、開発はNECソリューションイノベータの協力のもと、上記のようなゼロイチのアジャイル開発の経験がある開発チームと一緒に作れたことも、迅速に確実にプロダクトを作っていく上で大きかったと思います。

日本電気株式会社 コーポレート事業開発本部
田中 すみれさん

どういうペルソナを設定したのでしょうか

一般財団法人あしなが育英会 学生事業部奨学課
課長 富樫 康生さん

富樫さん
ペルソナは、高校2年生の女の子でお母さんが一人で働いていて、下にきょうだいがいる想定です。きょうだいがおり弟妹のために、自身が進学を諦める選択をとる例も少なくないので、その子が進学するなら、とベースに置きました。実際にあしなが育英会の奨学生も、半数以上が一人親の死別世帯で働いている方々です。

私はいま、リアルに目の前で奨学金を申し込む方の書類を日々見る立場にあるので、上記はリアリティを持ったペルソナであると強く思います。実際のあしなが奨学生のご家庭は、控除を差し引いた後の額で、所得がゼロになる場合が約4割です。中には生活保護を受けている方もいらっしゃいますし、割合こそ少ないですが家族のために自分が働くとか、後続のきょうだいのために家計に負担が掛けられないとの理由を記載している子もいます。

私が過去に関わった学生でも、そこでもあと半年頑張れたら看護士になれたのに、弟の進学のために大学を退学した学生の子にも出会いました。そういった学生のことは、今でもはっきり忘れられません。

田中さん
前編でも言及したように、私自身も、子どもの貧困の領域に関わらせていただく中で、やりたいことが明確に分からないのに数百万の学費の借金を背負って進学できないと言った子たちの姿が目に焼き付いています。私自身キャリアは仮説検証を経て精緻化していくものと思っていますが、人生の条件に引っ張られてその仮説検証さえできずに、いわば他律の人生になってしまう、構造的な問題があると思います。そう考えた時に、どうにか仮説でもよいので意志を持つきっかけと、意志がある人には道が拓けるような世の中であってほしいという思いがあります。

奨学金サービスを利用する人として、教員や保護者なども想定された中で、
ペルソナを高校生に絞ったのはどうしてだったのですか?

富樫さん
先ほど佐藤からも話したように、あしなが育英会の取り組みとして、ロールモデルとの出会いの一環で、交流会で大学生と出会う機会を作っています。その交流会で、高校卒業後は働くつもりだったが大学に行こうと考えを変える高校生もいます。

ですが、それを家に帰って話すときに、親から「うちにはお金がない」とか「馬鹿なこと言っているんじゃない」と中には反対するケースもあります。それは、家庭環境かもしれないし地域格差かもしれないのですが、いずれにせよ、いろんな理由で子どもがやる気になった時に、そうした要因で身動きできないことが想像されます。だったら自分で頑張りたいという高校生の意志を応援するものを作りたい。それが、高校生自身が奨学金を探していけるサービスとした理由です。

また、確かに子どもに対して、こういうのもあるよと伝えてもらう親御さんや先生、NPOにも奨学金の情報を届けたいですが、そういった周囲の大人は自分で調べる力が子どもよりもあるだろうと思うと、高校生を一番にペルソナに捉えたいと考えました。

田中さん
私の出身地域でもそうですが、大学進学が一般的ではない地域の親世代などは、自分たちも高卒であるが故に、大学に進学するとはどういうことか、奨学金がどんな仕組みなどの事情に詳しくない場合も多い実感があります。その中で、親のレイヤーの情報の狭さが子どもの将来をそのまま規定してしまう構造的な壁を破ることに寄与するものであってほしいと思い、高校生が自ら探していける仕組みが必要と考えました。

プロダクトを作る上でこだわったのはどのようなところでしょうか

田中さん
すべての工程で一貫していたのは、妄想で作らないということです。企画段階でも過去の奨学金利用者であり比較的学生にも年次の近い私の寮生時代の友人たちの声を聞き、ペルソナの策定段階でもあしなが育英会の資料を見せていただき開発チームにも共有し、リアリティを重視して開発にあたっていました。プロトタイプを作ってからも、あしなが育英会の奨学生である高校生に使ってもらい、実際のユーザーの声を集めたりすることなど、常に大人側の妄想で作らない姿勢を意識してきました。

富樫さん
実際の開発の要件を出していると、さまざまな良いアイデアも出てきますが、その取捨選択を徹底したと思います。アイデアの中には良いものもあり、保護者が使う時に便利とか、奨学金団体の人が見る時などの観点も出てくるのですが、高校生という観点、それも高校生がスマートフォンで使うならにこだわり抜いていたと思います。高校生が自分で調べるところを最優先し、ユーザーの声が大きいものは優先度高くしいたところ、初期の企画段階では見えなかった「選べる」というメッセージが見えてきたと思っています。

「選べる」ですか?

田中さん
最初の企画段階では、豊富な奨学金情報や制度が見えることで、進学は本当にできるのだという希望を持ってもらうことを第一に考えていました。しかし、検討が進んでいく中で本来は数多くある奨学金の中で、本当に自分が利用できるものが見つかるということこそが本当の価値であるという話になり、プロダクトとしてもその方向に舵を切りました。その背景には、奨学金はかつては、複数の奨学金を組み合わせることで進学費用を賄うスタイルだったのが、最近では一つの給付奨学金が見つかればそれで賄えるケースも増えてきているという状況があります。少子化等の影響でこうしたマクロトレンドの変化があり、「自分に合った奨学金が本当に見つかるか」がポイントになっていると考えます。

そのため単にたくさんの奨学金情報が検索結果一覧で表示されることだけに留まらず、ユーザーが奨学金詳細ページまで閲覧しているか、奨学金データをお気に入りに保存しているかなど実際に、本当に使える奨学金が見つかる体験に寄与しているかといった項目を重視し、検索条件や操作性をさらに改善するための議論をいまも行っているところです。

新サービスが1年でリリースをできたこと、そしてコロナ禍で数多くのプロジェクトが失敗しがちな中で、無事に開発を成功させることができたのはなぜだったのでしょうか?

田中さん
今まで十年来教育の機会均等に寄与すべく活動してきましたが、そこで出会った子どもたちの顏がありありと思い浮かんでいたのが、ずっと熱高く取り組んでこられた理由だと思います。

富樫さん、佐藤さんも同様にそのような子たちの顏がそれぞれに思い浮かんでいたとお聞きしています。本当にそういった景色を見たことがあるメンバーで進めており、最初からペルソナの共通認識がしっかりと持てていたこと、本当にその子たちにこのサービスを届けたいという思いを各々が強く持てていたことも大きかったと思います。

佐藤さん
また、開発時間が長くなると、それだけ高校生の機会喪失に繋がるというのも共通認識としてあったと思います。開発期間中には、コロナ禍で退学せざるを得ないなどのニュースも数多く聞きました。ですので、できるだけ良いものをできるだけ速くまずはベータ版としてでも出したい。それは後ろに倒れれば倒れるほど、機会を逸していくことは間違いないと思いますので、マイルストーンを決めて開発を進めていました。

奨学金団体として、奨学金の年間スケジュールも決まっていて、高校や高校生に情報を案内できるタイミングがあります。そうしたタイミングに照準を合わせてローンチしたことで、先日もあしなが育英会の奨学金採用試験でも候補者の高校生や大学生にCanpassの存在を伝え、今後全国の高校に向けて、掲示用ポスターを配布する等の構想も進めています。

最後に、高校生の皆様へのメッセージをお願いします

田中さん
「人生に与えられた不遇や条件はあれど、未来は自分の手で少しずつよく変えていける」ということをお伝えしたいです。振り返るとこのプロジェクト自体、「意志あるところに道は拓ける」を体現したようなものでした。私は難しい環境で育った人こそ、その目で見てきた社会課題に当事者意識があったり、制約を受けている状況への反発が底力となったりして、イノベーターとなれる素質があるはずだと思っています。ありたい姿を強く思い描けば、それが今は遠いものと思えたとしても、道はピボットしつつそこに向かって進んでいける。だから、自分の中の好きなこと、興味のあることを大切にして、妥協せずに人生を歩んで行ってほしいと思います。

さらに、私自身教育の機会均等に向け十年来活動してきて思うのは、「世の中をよくしたい」と言っている人はたくさんいます。でもその中で実際に行動する人は限られて、さらに、継続するということにはさまざまに困難が伴いますがそれでもやり続ける人はほんの一握りです。私はあきらめの悪い人が世の中を動かすと思っているので、そういう人になってほしいと思います。

富樫さん
Canpassは名前に込められた思い(「Can +pass」で“通れる道ができる”)の通りの役割を果たしてほしいです。Canpassでサードドアを見つけることで、進学したいと思える子どもが増えてほしいと思います。親との死別や親の障害やそれ以外にもさまざまなバックグラウンドの子どもたちがいますが、制度の条件の狭間で支援が受けられる・受けられないなどの事情がありました。実はさまざまな困難の形が少し違うだけで、困っているものの困っていると声を上げることができなかった子たちもいたと思うのですが、やっと皆さんに使っていただけるものができたのは純粋に嬉しいですし、高校生に知ってほしい、大人も含めて知って、使ってほしいと強く思っています。

私自身もあしながの奨学金を受けていた体験を振り返って思うのは、選んで良いのだというか、選ぶ力を育んでほしいなと思います。それは言い方を変えると、声をあげて良いのだということです。何かしたい、何か学びたい。それがなかなか環境によっては言いづらい、選びづらい、もしくは選べないと思っていることがあるので、あなた自身が選んで良いのだよということは感じてほしいです。

その次の段階として、選ぶ幅を広げる段階になると思います。大学には行けるけど、地元じゃないとダメ、一人暮らしはできない、国公立じゃないとダメなどいろんな制約があります。ですが、ちょっと繋がると、これだけ奨学金があるのだ、学費免除制度があるのだと知れば、選ぶ幅が格段に上がるという意味だと、選べるようになった先に選べる幅を広げるというのができると、もっともっと自分のやりたいことができるようになるのではと思いますし、Canpassがそのきっかけとなればと強く願います。

佐藤さん
ここに並んでいる3人とも運が良かったメンバーだと思います。経済的な問題などありつつも、奨学金やいろんな機会と繋がり、進学をして、今ここにいます。これまであしなが育英会の職員として働いてきましたが、運の良さ悪さを実感することがあります。例えば、夏のキャンプで将来看護士になりたいという高校3年生が二人いたとして、片方は将来と繋がり、もう片方は夢だけで終わってしまうこともあります。それは、その子が利用できる制度とか奨学金とうまく結びつかなかったことで、その道が絶たれているということが起きているからです。

そのような実例を見たときに、自分はすごく幸運が重なったなと感じています。ただ、それが運の良さで終わらせてはいけないと思うことがあって、次の世代の子どもたちに、その運の良さ悪さを無くすという意味で、Canpassが力を発揮してくれると良いと思います。

これ自体は使ってもらわないと意味がないと思っています。より使ってもらうようにするためには人が媒介することが重要でもあると思うので、あしながでさまざまやっているサマーキャンプや、大学の先輩と高校生との繋がりなどの機会を利用して、このシステムが活用される土壌を私たちが作るのが次の段階です。

一般社団法人あしなが育英会 学生事業部
課長 佐藤 弘康さん

私は、夢や目標を持っている高校生だけではなくて、特にやりたいことが見つかっていない人ほど大学に行ってほしいという考えがあります。やった後に好きになったり、新しい目標が見つかったりするので、まずやってみることがすごく大切です。ですが、お金が無かったり、経済的にも余裕なかったりと、そんな特にやりたいことも決まっていないのにもったいない、働きなさいという圧力もあると思っています。そうではなくて、それをすることで、その子の人生が将来より豊かになるということを強く言いたいです。

特に奨学金はちゃんと探して、見つけることができれば、経済的な不利が大きい人ほど給付が多く、無償貸与のチャンスが多いと思うので、ぜひ利用してほしいと思います。奨学金を組み合わせれば、かなりの額を受給ができる。一方でなにも知らずに働く場合、低い賃金で身を粉にして働いて、自分のスキルアップにもなかなか繋がらないということが起こり得る。それならば奨学金を使って、大学に行って、いろんなことを経験した方が良いよと強く言いたいのです。今やりたいことがないとか、特に将来に目標がないという高校生こそ、これはチャンスだ!大学に行ってみよう!ということをメッセージとして伝えたいですね。それを贅沢だと思わない社会に、そう言わない社会になってほしいと思います。

PAGE TOP