メンバーインタビュー
“高校の勉強”から“大学の学問”への架け橋をつくる挑戦
03 石上 遼(コンテンツ開発 / 経営企画)
「“教育”の内と外をつないで翻訳する。そんな自分なりの教育への関わりを続けていきたい」
そう話してくれたのは、Foraで教材開発と経営企画を担当する石上 遼さんです。探究学習やキャリア教育をさまざまな角度からサポートするFora。「Foraで働くスタッフがどんな想いを持ちながら、Foraに関わっているのか」を聞き、Foraをより深く知るきっかけをお届けするインタビュー。今回は、石上さんがキャリア教育やForaに関わるきっかけ、現在の活動やそこに込めた想いについてお話を聞きました。
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コンテンツ開発 / 経営企画
石上 遼(いしがみ・りょう)
国際基督教大学卒(生物学専攻 / 物理学副専攻)、慶應義塾大学通信教育課程文学部(哲学)在学。
新卒で日本IBMにエンジニアとして入社。金融系のシステム運用保守や学生向けのインターンシップ運営等に従事。その後フリーでポートレート等の撮影を行いながら、G’s ACADEMY TOKYOへ。卒業後同期が起こした株式会社efooのオンライン料理教室サービス『シェフレピ』のレシピ動画や写真の撮影を行う。2020年12月より一般社団法人Foraの教材開発のプロジェクト、経営企画に参画。一般社団法人まなびぱれっと理事。
学問の奥深い世界の入り口に立ってほしい
まずはじめに、石上さんはforaでどのようなことをしていらっしゃるのでしょうか?
今年の春までは、キャリア教育教材(進路探索ガイドブック)づくりを主に行っていました。
キャリア教育教材は、大学進学を目指す高校生が「何を、なぜ、どこで学ぶのか」を考えることをサポートするための教材です。学問への理解を深めながら、自分なりに納得感のある選択をするヒントを詰め込んだものになっています。
ー具体的には、どのようにキャリア教育教材づくりを進めていったのですか?
最初は、本屋や図書館から、参考にできそうな本や資料をいっぱい持ってきて「この本のこういうところを真似したらいいかもね」といったことを、主にFora代表の藤村さんと二人でやっていました。市販されている本などを見ることで教材の具体的なイメージを膨らませていきましたね。
それから、イメージを元に教材の目的やターゲットを整理し、章立てと全体のスケジュールを考えるところから始め、各章の大まかな内容を考えていきました。
途中で編集に宇都さんが加わってくれ、レイアウトや教材のサイズなどを決めて、改めて実際にどんなふうに使ってほしいのか?などを想定して、目次をつくっていきました。
そして目次をもとに、必要な情報を集め、「高校生に何を伝えたいか?」「どんな伝え方だとわかりやすいか?」を全員で議論しながら、少しずつ執筆を進めていきました。
全体としては、プロジェクト全体のマネジメントや学問の紹介部分の執筆を私が担当し、藤村さんがその他の部分を執筆し、宇都さんが教材紙面の絵コンテの形に落とし込んでいく、という役割分担でしたね。
すごい。本当に一から作ったんですね。石上さんはなぜキャリア教育教材づくりに関わろうと思ったのですか?
最初は、当時Foraに関わっていた知り合いから声をかけてもらったことがきっかけでした。ちょうどそのタイミングで、自分が学んでいる学問をアウトプットしたいなと思っていたんです。
ー 学問のアウトプット?
はい。当時、個人的に哲学史の勉強会を行っていて。
“哲学”という枠にとらわれず、社会学のような他の学問も含めて、人に説明できるように知識を自分の言葉で落とし込んでいったり、分かりやすくまとめたり、そういうことに興味関心が向いていたタイミングだったんですよね。
学んだことは人に話さないとなかなか身につかないし、「どういうふうに伝えたら伝わるのか?」を考えながら学んでいくほうが、学びのあり方として良いなと思って。
Foraのキャリア教育教材は、
「大学の学問はこれまでの勉強と何が違うのか?」
「それぞれの学問がどんな問いを持ってうまれ、どんなことを目指しているのか?」
を、高校生に分かりやすく紹介する、ということを目指していたので、またとない機会ではないかと感じたんです。
だから、そもそもの学問自体への興味関心みたいなものが、Foraのキャリア教育教材の話を聞いた時にピンときた理由なのかもしれませんね。
なるほど。実際に教材をつくる際は、どんなことを意識しましたか?
高校生からすると、「何学部」と名前を聞いても、学部の中身まではわからないことが多いです。なんとなくイメージができても、具体的にどのように学んでいくのか、手触り感がありません。
自分自身も、志望校を選ぶときに学問を選ぶことができず、教養学部しか受けなかったという原体験があります。
だからこそ、私は学問紹介の部分の執筆もメインで担当したのですが、高校生からすると「理系」「文系」ぐらいのくくりでしかないような学問について、その学問がなぜ出来たのか、一見関係の無さそうな学問同士にどんな結びつきがあるのかなど、かなりマニアックに思われるような部分まで書くことで、面白さを感じてもらおうと意識しました。たとえば社会学には数学も関係している、とかですね。
Foraはそれ以前にもキャリアゼミという学問を楽しく体験するワークショップを学校でやらせていただいていましたが、今回の教材をつくるにあたって、より深く学問について伝えることにこだわりたいと思いました。それぞれの学問に関する本はたくさん出ているのですが、それを集めて読み比べ、「高校生がどんなポイントを面白いと思うか?」を考えながら、何度も書いては修正して…を繰り返しましたね。
でも、この教材はあくまで最初のきっかけであってほしいと思っています。
ー最初のきっかけというと?
この教材の学問紹介を読んで終わりではなく、自分なりに関心をもってなにか少しでも調べてみたいと思えるようなきっかけを届けられたらと思っています。
今回の教材は、大学の教養課程の教科書と高校の教科書の繋ぎぐらいの情報をイメージして作りました。私が言うのもおこがましいとは思いつつも、試験のために学んで覚えたりしている事柄の先の学問の奥深い世界の入り口に立って、「この先にはこんな世界が広がっているのか!」と思ってもらえたら嬉しいですね。
大学の学問へのつながりというか、翻訳者のようなものでありたいです。
計画してやる、からまずはやってみる、へ
そもそものキャリア教育に関連してですが、石上さんの経歴を拝見して、個人的にはあまり出会わないキャリアの方だなと思いました。
そうですよね(笑)
私のキャリアは行き当たりばったりに見えるかもしれませんが、現実的に考えて選んだ部分もあって、会社を辞めるときも、意外とちゃんと計画してもう何年か仕事をしなくても困らない状態にしてから辞めたんですよね。でも、自分のフィーリングや面白そうだな、と思う方向へ「まずはやってみよう」と進むことも大事にしています。
当時内定をいただいていた会社に転職する選択肢か、社内異動か、しばらくプログラミングを学ぶか、という3つの選択肢があったのですが、「転職は今でなくても良いかもしれない」「社内異動は時期が読めない」ということでそれならば少し時間をかけてもともと興味があったプログラミングをやってみるかというような感じでキャリアの選択をしました。
仮説をしっかりと立てて検証していくというよりも、「なんかよさそうかも」と思ったらやってみる、という感覚です。
哲学史の勉強会をとりあえずやってみよう!と思ったのも、その一種ですね。
Foraの大事にしている「仮決め」という考え方に近いように感じました。Foraのキャリア教育の考え方と共通点があったりするのでしょうか?
そうかもしれないですね。
Foraには「仮決め」という考え方があります。
机の上で悩み続けても必ずしも答えが出るとは限らないからこそ、まずは仮でいいので、進路を決めてみる。そして、興味があることを調べてみて、違ったら修正して、また仮で決めてみる。そのような仮説検証サイクルを回すことによって、より納得した進路選択に繋がるのだと考えています。
ただ、Foraに関わる前に、「キャリア教育」という名前で何かに取り組んでいたことはなかった気がしていて。
もともと高校2年生から大学2年生ぐらいまでは研究者になろうと思っていたんです。でもどちらにせよ大学院に行っても1年で就活することになるかもしれないと思って、大学3年生のときに民間企業を見始めました。
研究職を志すと言っても、私の不勉強もあり具体的に「このテーマに取り組みたい」という領域が見つからないまま、色々な企業をみていくうちに、研究の世界でやっていくモチベーションが沸かなくなってしまって。民間企業に入ったほうが視野が広がって良いかもしれないと思い、民間企業に就職することにしました。
そして就職した民間企業でご縁があって、人事系のお仕事に関わることがあって、インターンシップの運営や、座談会で学生さんの相談に乗るといったことも行っていたんですね。
具体的にキャリア教育を意識していたわけではないですが、日常的に考えているものでもあったし、関心はあったんだと思います。
「教材づくり面白そう!」なんて、ほとんど勢いで参加したプロジェクトではありましたが、良い経験になりましたね。普段は個人で動画や写真の編集作業をしていることが多いので、藤村さんや宇都さんと密にミーティングを行いながら作り上げていくことができ、チームだからこその「つくる楽しみ」を味わえましたね。
共通言語をつくり続ける
学問への探究心と、ひとへの探究心がどちらもあるように感じました。目の前の方と関わるときは、どういったことを意識していますか?
そうですね。
小・中・高校と、昔から人の相談にのることが多かったんですよね。自分で言うのもなんですが、なんでも相談してよさそうな空気のようなものがあるのかもしれません。
ー相談してもよさそうな空気、ですか?
相手の言っている内容に必ず味方をするわけではなく、「これはそう思うけど、こっちはちょっと違うんじゃないの?」というようなことも言いますが、突きつけるようなシビアな言い方ではなく、相手が受け取りやすいようにやんわりと伝えるのが昔からの癖でした。多分そういうこともあって、色々相談しやすいのかなと思いますね。良くも悪くもではありますが、フェアでフラットな第三者的なポジションというか。
そう言われると、今関わっているForaの経営企画でも、その二面を使っている感じがしました。
経営企画会議では、どんなことをしているんですか?
キャリア教育教材の制作を通して、代表の藤村さんとよく話をするようになって。そのときにForaの組織体制や、組織マネジメントの方向に話が広がっていって、それが今の経営企画会議になりました。
経営企画会議も、具体的にやることが決まっているわけではないんです。
雑談の延長戦上で、相談と雑談の間くらいの感覚で藤村さんが考えていることをみんなでブラッシュアップしていくみたいな感じで。
経営企画会議には、藤村さんと私の他に、もう一人NPO法人を経営されている藤村さんの先輩も参加されています。その方は、外からの客観的な目線で「会社として、これをやってみたらどう?」といった提案をしてくださいます。
私は、その方よりもForaのメンバーの考え方や現状を知っているので、外部からと内部からの視点で進められたらということで、今の形になりました。
ーなるほど。なんだか、キャリア教育教材をつくる際にやっていたことと似ていますね。
確かに、そうかもしれませんね。日本語から日本語への翻訳のようなことを、ずっとやってきているように感じます。
教材づくりにしても、経営企画にしても、社内でつくったコンセプトを世の中に伝わる言葉に言い換えるとか、これってこういうことなんじゃないか?と、共通言語をつくるような役回りが多いですね。
さっきまでの話と繋げると、哲学の勉強をはじめたのも同じような理由で。
哲学に対して、「頭のよさそうな人が、難しい言葉で難しそうなことを言っている」みたいな印象を持っている人もいると思うんですが、それをもう少し翻訳したいと思っています。
「誰々が何々といった」といった知識だけを知っていてもあまり幅が出ないんですよね。
例えば、ギリシアで「哲学」が発展した背景についてお話しすると、ギリシアではもともと神話によって世界で起きていることを説明していたのですが、貿易が盛んになり異なる文化の人が混ざりあうようになると、神話による説明が通じなくなってきたんです。そこで、起きていることを説明するために、それこそ「共通言語」が「必要」になり、哲学が発展したと言われています。
このように時代の背景や特定の思想が生まれることになった必然性が分かると、違う現象に出会ったときにもその現象を分析したり翻訳したりできるのではないかと思っています。
自分としては、哲学の勉強も「共通言語づくり」の一種というイメージですね。専門的で難しいことを、ある程度日本語がわかる人には理解ができるように言い換えるというか。
コーディネーター的に専門的なところと繋いだり、共通言語をつくったりするのが、やりたいことに近いのかなと思っています。
自分だからこそできる教育への関わりを
最後に、石上さんがForaで実現したいことを教えてください。
学校の先生達とも色々と話していて現場のことも知っているし、特に代表の藤村さんは議員事務所でインターンをしていたこともあり、法的なことや教育制度的なことにも詳しい。
そういう詳しさは自分にはないなと思うと同時に、専門家になりきらないからこそいろいろな立場の人の意見をフラットに聞いて翻訳していくコーディネートができると思っていて。
あとは、他の人と比べて小さいころから人間観察をしていたおかげもあって、その人がどういう人なのか、相手が何を分かっていてなにを分かっていないか、といったようなその場の空気や肌感を掴むのは早いかなと思っているので、それも翻訳の役に立っている気がします。
そんな自分だからこそ、”教育”の内と外をつないで翻訳するということを続けていきたいですね。
聞き手・編集:加藤恵美 / ライター・写真:鈴木あゆみ